観るものと、生活の日記

「タイムマシーンブルース2005」

ヨーロッパ企画「サマータイムマシンブルース」
★★★★☆


2005年8月8日19:00 於:アートコンプレックス1928

作・演出:上田誠

出演者: 中川晴樹 石田剛太 酒井善史 諏訪雅 土佐和成 永野宗典 清水智子 西村直子 角田貴志 本多力 



(あら筋)

 とある大学の夏休み。SF研究会の部員たちは、本来の活動は一切せず部室でダラダラ過ごしたり、草野球をしたり、銭湯に行ったりして、同室の暗室を使っているカメラ部員とともに、楽しんでいた。

 ある日、突然タイムマシンのような機械が、部室に現れる。冗談で乗せられた曽我【永野】が消えてしまい、次に現れたとき彼は「昨日にいってた」と言う。確かに、昨日カメラ部がうつした写真をみると、服装の違う曽我が2人うつっているのだ。部員たちは「本物のタイムマシンだ」と大騒ぎ。「どこへいこうか」と相談の結果、昨日壊したクーラーのリモコンを、壊す前に持って来ようと提案。今度は小泉【石田】、新美【諏訪】、石松【土佐】というお調子者の3人が昨日へ出発。

 そこへ未来人だという田村【本多】が現れる。彼によると、タイムマシンの設計図にあった日付が今日になっていたのでやってきたのだという。
昨日にいった3名は戻ってこないまま、タイムマシンだけ帰ってくる。頭脳派の小暮【酒井】は、「もしリモコンが手に入れば、"リモコンがなかった今日の俺たち"は存在しなくなるんでは?」と考え、比較的落ち着いた甲本【中川】・曽我と共に3人を止めにやはり昨日へ。そこから昨日の彼ら、今日の彼らと入り混じりややこしいことが起きていく。

 混乱の結果、全員今日に無事戻ってきて、田村も帰っていく。骨を折った割に何も変わらなかったため、一部始終みていたカメラ部の伊藤【西村】は、「過去って変えられないんじゃん」と言う。

しかし、巡り巡った結果、リモコンだけは壊れていないのが再び手に入った。そこでカメラ部OB照屋【角田】は「やっぱり…全く変えられないことはないんじゃない?」と問う。小暮は、覚えているうちにタイムマシンの設計図を書いておくことにする。


(感想)

 招待券があたったため「代表作ってことはそこそこ面白いかもなー」くらいのつもりで観に行きました。券あたってなければ観に行ってないと思うと、ホントよかったです。見逃してたら、もったいないところでした。自費で行っててもチケット代が安すぎるように感じたかもしれない。

 まず「平凡なウェ~イ」と同様セットや小道具がステキ。ビールケースと古畳でつくったベッド。20年は使われてそうなクーラー。 処狭しとSFに関係ない余計なものが溢れかえって。変な看板だの標識だのまであり、「意味のないものが置いてある部室」に何だかユルい学生らしい懐かしさを感じました。
 後に、それら看板等は、若気の至りで(ダメなんだけどさ)持ち込まれたものだと分かるのですが。

  話で何より面白いのは「タイムマシーン」なんてものが出てきたら、フツウ大きな展開がありがちなものでしょうに、それが「昨日にいって壊れる前のクーラーリモコンをとってくる」ことにしか使われないという発想。  場面転換をしない、狭い部室の一室だけで、ちゃんと話が成り立つという。 それに、未来人の方が服装や言葉が古い、っていうのも新鮮でした。 ちなみに、出てくる大学生達も、ちっとも今時風じゃないのもいい感じ。 変に今時用語や流行が使われているとわざとらしくなるし、後でみたとき 異様に時代を感じるので、そうじゃない方がすきです。

 昨日、今日といったりきたりするんですが、「今どっちだっけ」などとややこしくなることもなく、伏線を上手に使ってあり、感嘆しました。  筋のボヤけた感覚重視のお芝居の方がすきかも、なんて思ってたけれど、これは誰が見ても楽しめそう。

 役者さんたちも、華やかではないものの、とてもまとまりがよくって、若者劇団なのに、みんな上手くて誰もはずす人がいてませんでした。誰も「決められたセリフを喋って演じてる」ってカンジがしないんです。普段の会話のノリを、そのまま生かしているかのようで、なめらか。演技くささのない不思議な印象。
その何気ない会話が、また笑えるんですよね。ユルくてバカっぽい話をどんどん思いついて、ある意味頭の回転が速く知識も豊富なひとたち。

 タイムマシーンも似てるし「ドラえもん」的なところもあるのですが。 過去が変えれば現代も変わり、特に問題が起こらないドラえもん世界とは 違い、「過去を変えれば、すべてが消える」という理論の元に進められてます。

 でリモコン一つでえらい騒ぎに発展したうえ、何も変わらず徒労に終わったことで 「物事は最初から全部決められていて、何も変えられないのでは」みたいなセリフがはかれるあたりでは、ちょっと寂しくなりました。ホントにそうなら、ひどいって思うことも多いですしねぇ。

なので、呑気なOBさんの「でも、さっきまでなかったリモコンが今あって使えるというのは、やっぱり変わってるんじゃないの?」とかいうセリフがすきでした。

 99年間土の中にあったリモコンが(ビニールにくるまれていたとはいえ)壊れておらず、電池も替えなくても使えた…とか(笑)、クーラーの寿命の長さとか、ざっと機械を見ただけで設計図まで書ける小暮さんとか「ん?」ってとこもありますが、小さな劇場でここまでよくやったなというのを前にすれば、別にいいやと思わされます。
 最初に設計したのは誰?とか考えるのも、何だか楽しいです。

 オチも楽しく、甲本君の最後のセリフが可愛らしく感じました。

 


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